広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter24. ロイヤルウェディング

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

ウィリアム王子とケイト・ミドルトンさんのロイヤルウェディングでイギリス連邦が沸き立っただけでなく、世界中が新しいカップルを祝福した時期に、たまたま映画「英国王のスピーチ(The King's Speech)」を見ました。ご存じ、第83回アカデミー賞作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞の4部門受賞に輝いた2010年制作の作品です。のちのジョージ六世、アルバート王子が少年時代のストレスから発症したと思われる吃音症に苦しむ様子、王族としてのプライドを捨て、これを克服していく過程をリアルに描いた名作です。アカデミー主演男優賞を獲得しただけあって、コリン・ファースの演技は見ものですが、治療に当たるライオネル・ローグ役のジェフリー・ラッシュも捨てがたい味を見せます。

ストーリーの歴史的背景もさることながら、各所で交わされる会話など生粋のイギリス人であれば、もっと話の奥行きを理解できたのではないかと、目で字幕を追うだけの私としては、無知ゆえのもどかしさを拭いきれません。本来役者志望で次々オーディションを受けるオーストラリア出身のライオネル・ローグは、セリフは完璧に記憶しているにもかかわらず、多分なまりのせいで採用されず、止むを得ず言語療法士として生計を立てています。イギリス人であれば、キングズイングリッシュとオーストラリア英語の違いなど、標準語と大阪弁の差同様に自明のことでしょう。あたかも「マイ・フェア・レディ」のコックニー(Cockney)を想像するのですが、そのあたりのニュアンスも判りかねるのが悲しいところです。

作品中、吃音の治療に大音量の音楽を聴かせながら、ハムレットのセリフを言わせたり、スピーチを歌のメロディにのせて話させる訓練、いわば一種の音楽療法が行われていました。左脳の言語脳と右脳の音楽脳を使い分ける治療法は科学的にも理にかなっています。実際、私の大学病院時代の同僚で吃音がひどく、学会発表で緊張するとジョージ六世同様に立ち往生しかねない医師がいました。しかし、彼はカラオケではよどみなく歌えるのです。しかも、海外の国際学会で発表したときなど、英語であるにもかかわらず、日本語の発表で見られた吃音などまったくありませんでした。彼にとって英語はカラオケの歌詞同様に認識されていたのです。映画を見ながら、昔の出来事を思い出し、思わず納得してしまいました。

英国王の治療にあたったライオネル・ローグは、医師ではなく言語聴覚士と紹介されています。市立芦屋病院のリハビリテーション科でも言語聴覚士が活躍していることは、以前にも本欄で取り上げました。過日は、栄養サポートチームの一員として、嚥下障害に取り組む言語聴覚士に触れましたが、吃音症などの言語障害の矯正訓練も守備範囲のひとつです。お困りの時はご相談下さい。

余談ですが、映画では「王冠を賭けた恋」で知られるジョージ六世の兄、エドワード八世の妻ウオリス・シンプソン夫人が大変な悪女として描かれています。シンプソン夫人の言動は、チャールズ皇太子の後妻カミラ夫人とオーバーラップして見え、英国民が如何に彼らを毛嫌いしているかが、垣間窺われました。映画の中で、ジョージ六世の長女、現エリザベス女王が可愛い王女で現れるのもご愛敬でした。また、ロイヤルウェディングでキスシーンが何度も放映されたバッキンガム宮殿のバルコニーを、「英国王のスピーチ」では内側から撮影されていて、タイミング良く楽しむことが出来ました。

(2011.6.1)