広報誌HOPE Plus

名誉事業管理者(前事業管理者)のつぶやき

Chapter191.EXPONEW

市立芦屋病院名誉事業管理者 佐治 文隆

大阪・関西万博(EXPO2025)に行ってきました。私たちの世代では、「万博」といえば「大阪万博(1970年日本万国博覧会)」のイメージが強く、千里丘陵で開催された「EXPO’70」は記憶に深く刻み込まれています。高度成長期を迎えつつあったわが国でしたが、先進欧米諸国はもとより海外への旅行滞在経験もほとんどなかった庶民にとって、諸国の文化文明を肌で触れる機会はとても新鮮でした。アメリカ館ではアポロ12号が持ち帰った「月の石」が人気を呼び、今では実用化された動く歩道やモノレール、リニアモーターカーをはじめ携帯電話やテレビ電話がそのプロトタイプを披露したのもこの時でした。食の面では、ミスド(ミスタードーナッツ)1号店が日本で初めて開店した時代ですから、万博会場ではケンタッキーフライドチキンやファミレスが経験でき、今まで味わったこともないエスニックフーズの数々を目にし、口にした人がほとんどでした。私自身も会期中に10回は入場し、贅を凝らしたパビリオンに目を奪われ、香辛料の効いた異国料理を楽しみました。

EXPO’70のテーマは「人類の進歩と調和」で、記念モニュメントは岡本太郎制作の「太陽の塔」でした。三波春夫の万博音頭「♪♪パットパラリと パッとひらく 花の万博花の万国博覧会♪♪」の歌声が日本中で流れたのもこの頃です。まさに国をあげてのお祭り騒ぎだったのですが、各種イベントが太陽の塔を覆うように取り囲む大屋根の下、「お祭り広場」で文字通り行われました。私が観たお祭り広場の行事でもっとも印象に残っているのはタイのナショナルデーで、16頭もの象が出演し演技を見せてくれました。何しろ動物ですから出演中もところ構わず排泄し、その量も並大抵ではありません。軽トラックに乗った清掃員たちが走り回って処理していました。彼ら象たちは神戸港に到着後、歩いて万博会場に向かいました。途中武庫川で水浴びして一夜を過ごし、会場に向かいました。妊娠中の象もいたようで、会期中に出産し話題になりました。

今回の万博でもタイパビリオンでは、EXPO2025テーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」にふさわしく、繁栄と長寿の象徴である「象」の巨大な木像が訪れる客を出迎えてくれます。木造といえば「大屋根リング」には圧倒されました。入場前はニュース報道で見て、「巨額の費用であんなものを・・・」と思っていましたが、実物を目の当たりにして、その迫力に驚き、「これは来てよかった。一見の価値がある」と感じました。まずは大屋根リング上の遊歩道を巡り、各パビリオンのユニークな建築物を見るだけで万博を楽しめます。スマホを駆使しないと入場予約が取りにくい人気パビリオンでしたが、私はオーストラリア館、パソナ館、住友館になんとか入ることが出來、イベントではPhysical Twin Symphonyを観ることが出来ました。「EXPO’70」がどちらかといえば物質的な未来社会を描いていたのに比べ、「EXPO2025」ではIPS細胞など再生医療やSDGsなど人類が生き残るために未来社会はどうあるべきかという哲学的命題を含んでいると愚考しました。本稿執筆時点(6月)でまだ二度しか入場していない私がおこがましいことは言えませんので、少しでも多くのパビリオンを訪れて、発信するメッセージを受け止めたいと思います。

わが国の万国博覧会への参加は古く、1862年、1867年、1873年にそれぞれロンドン、パリ、ウイーンで開催された万博に出品、出展しています。当時の展示物は美術品、伝統工芸品などが主だったようで、異国に憧れるヨーロッパ市民の人気を博したとのことです。そこで大阪・関西万博を記念して、特別展「日本、美のるつぼー異文化交流の軌跡―」が京都国立博物館で開催されました。絵画、彫刻、書籍、工芸品など国宝、重文を含む200点が展示された贅沢な展覧会です。 本展の目玉のひとつ、琳派の祖、俵屋宗達による国宝「風神雷神図屏風」は力強く迫力があり、それでいて少しコミックな筆致はさすが琳派の先達だけのことはあります。やはり江戸時代の寵児、葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景」では、「神奈川沖浪裏」はもちろん赤富士で知られる「凱風快晴」、さらに「山下白雨」など西欧ジャポニズムに影響を与えた版画の数々も観覧できます。また多くの史跡や古墳等からの出土品も展示されていますが、あの高松塚古墳の極彩色壁画の模写も印象的でした。それもそのはず平山郁夫ら著名日本画家が忠実に模写した作品とのことでした。圧巻は平安時代の五軀の如来像「五智如来坐像」がずらりと並ぶ展示スペースでしたが、私の眼を奪ったのは宇治萬福寺の十八羅漢坐像のうち、自分の中に仏がいると両手で胸を開いて見せるユニークな姿の羅怙羅尊者像です。像内胸部に巻物などが収納されていることがCTスキャンのよって判明したそうです。なぜかこの像だけが写真撮影が許可されていました。

大阪・関西万博は夢洲の会場だけでなく、場外の万博開催記念特別展でも私たちを楽しませてくれます。

(2025.6.21)