広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter19. ウサギ

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

新年明けましておめでとうございます。

妊娠の診断と言えば、今や市販の妊娠検査薬で尿を調べることで、簡単に出来る時代になっています。この検査は、妊娠によって出現するホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピンhCG)を、免疫学的手法で検出することによって判定します。私が医師になり立ての頃の妊娠反応は、フリードマン反応と言って雌ウサギを使った生物学的検査で尿中hCGを測定していました。病院屋上のウサギ小屋で雌ウサギの耳の静脈に尿を注射し、2日後に開腹して、卵巣に排卵が起こっていれば陽性と判断するわけです。処女のウサギというふれこみで業者から購入したのに、開腹すると妊娠ウサギで検査はやり直し、そんなとき新米医師は泣きそうになったりしたものです。当時の先輩によると、昔は検査や研究に使ったウサギは研究室でナベにしたとかですが、昭和40年代には、さすがにそのようなことはありませんでした。

フランスではジビエと言って、野生動物を食材に賞味し、野ウサギもその対象になっています。ウサギ以外に、シカ、イノシシなどの獣類、マガモ、キジ、ハトなどの鳥類もジビエにはいります。わが国でも古来から獣肉は食されてきましたが、獣肉食が忌避される時代もありました。ウサギが1羽、2羽と数えられるのは、ウサギを鵜(う)と鷺(さぎ)に読み替えて、鳥類とこじつけて食用にした名残とも言います。

宝塚市出身の女流作家、高田郁のシリーズ「みをつくし料理帳」は、剣ならぬ包丁を武器に困難を乗り越える時代小説です。浪速生まれの薄幸の少女澪(みお)が江戸に下って、彼の地で女料理人として成長していく様を描いています。吉原の大夫が幼なじみと判るなど、佐伯泰英の「居眠り磐根江戸双紙」シリーズを彷彿とさせますが、「みをつくし料理帳」では次々と紹介される創作料理の数々が楽しみです。各巻末には文字通り料理帳が添えられ、レシピを知ることが出来ます。作者が実際に作っているとのことで、女性ならではの細やかさが見られます。もっとも江戸時代の浪速料理とあって、動物性タンパク質は魚どまりで、ジビエなどまったく出現しません。これからのシリーズに姿を見せるかも知れませんね。

私自身はウサギを食べる対象よりも、愛でる対象と感じています。日本民話「かちかち山」は少々残酷ですが、ウサギによる勧善懲悪物語です。「因幡の白ウサギ」では、意地悪ウサギが毛皮をはがされてしまい、イソップ寓話「ウサギとカメ」ではドジな失敗を踏みますが、「不思議の国のアリス」では道案内を努めるなど、なかなか憎めないキャラの持ち主です。キャラクターグッズに使われるピーターラビット、バッグスバニー、ミッフィーなど、女の子ならずとも思わず笑みが浮かんできます。私の愛用するネクタイのひとつに、ウサギと杵の柄があり、仲秋の名月の頃には好んで着けています。

「脱兎の如く」という表現があります。ウサギの足の早いことを示していますが、後ろ足が長く、前足が短い特徴から、上り坂では体の傾きが水平となり、より脚力が有効に活かされます。政治や経済が上り坂になり、卯年にふさわしいスピードで疾駆出来る年であることを望んでいます。

(2011.1.1)