広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter161.ひまわり

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

今夏は異常なほど暑い日が続きました。その一方では各地で大雨が降り、線状降水帯の予測や各種警報の発令が注視されました。天気予報は静止気象衛星「ひまわり」の観測データが使用されています。現在「ひまわり8号」が稼働中で、本年末からは静止軌道上に待機中の「ひまわり9号」が運用される見通しです。さらに最新センサーを備えた後継機(「ひまわり10号」?)も近々製造に着手されるとのことです。気象衛星の愛称は、ひまわりの花が太陽を追尾して花を咲かせるのと同様に、衛星が地球を同じ方向から見ているということと、一日一回地球を回るという意味をかけて命名されました。

この夏、観賞用の小輪のひまわりを鉢植えで育ててみました。長い日照時間が期待できる屋外に置いて、たっぷりの水をやり、毎日「きれいねえ」と声をかけてメンタルケアを重ねました。そのおかげかどうか、つぎつぎと開花し、多い時には一度に10輪くらいが咲くなど、長いあいだ鮮やかな黄色い花弁を楽しめました。和名「ひまわり」の由来といわれる「太陽の動きにつれて花が回る」のは、生長が盛んなつぼみをつける時期までで、花が開く頃には動かなくなることも知りました。ひまわりは基本的に食用植物であり、種を絞ってひまわり油として利用されます。世界の油糧種子生産量は約6億トンで大豆が過半を占めていますが、菜種や綿実に次いでひまわりの種子も生産されています。世界の植物油の生産量は2億854万トン(2019/20年)で、果肉から抽出されるパーム油が7,392万トン、大豆油が5,859万トン、菜種油2,494万トンで、ひまわり油は2,153万トンです。ひまわり油の生産はウクライナ716万トン、ロシア597万トンと今話題の両国で過半を占めています。

映画「ひまわり」(原題イタリア語「I Girasoli」1970年)は第二次世界大戦で引き裂かれた夫婦の運命を描いた作品で、冷戦時代のソビエト連邦(ソ連)にロケし、画面いっぱい地平線まで広がるひまわり畑が印象的でした。ロケ地は旧ソ連時代のウクライナ中部ポルタヴァ州だったそうです。主演はマルチェロ・マストロヤンニ(イタリア兵士アントニオ)、ソフィア・ローレン(アントニオの妻ジョバンナ)、監督はヴィットリオ・デ・シーカ、製作はカルロ・ポンティ(ソフィア・ローレンの夫)、そして流れる主題曲はヘンリー・マンシーニが担当と錚々たるスタッフ、キャストを揃えた名作です。

大戦中にアントニオと結婚したイタリア娘ジョヴァンナは、ソ連戦線に送られた夫の帰りを敗戦後も何年も待ち続けますが、雪原で倒れたのち行方不明と知ります。彼女は社会主義国家のソ連に赴き、イタリア軍が戦闘していたウクライナで夫を探します。戦場の跡地はひまわり畑が広がり、多くの兵士がその下に眠っていると言われますが、彼女は夫の生存を信じて疑いません。ついに見つけたアントニオは若いロシア人女性マーシャと家庭を持っていて幼い子供もいます。傷心を抱えて帰国し、荒れた生活を送るジョヴァンナのもとに、彼女を追ってアントニオが来ますが、すでにジョヴァンナにも赤ん坊がいて別の人生を歩んでいることがわかります。ひたむきに愛していた夫を、戦争によって引き裂かれた悲しみが、哀愁に満ちたメロディとともに観客の心を掴みます。

ロシアによるウクライナ侵攻から9ヶ月が経ちました。戦争の終結は見出せません。ひまわり油の生産だけではなく、ヨーロッパの穀倉地帯ウクライナの小麦やとうもろこし生産・輸出への影響は計り知れません。ましてや両国の死傷者数を考えると胸が潰れる思いがします。たとえ戦争が終わっても、映画「ひまわり」の悲劇も繰り返されることでしょう。被害が最小限にとどまることを願って止みません。

(2022.11.1)