広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter159.七草

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

 せり/なずな・ごぎょう/はこべら・ほとけのざ
 すずな/すずしろ・はるのななくさ
といえば、春の七草を詠み込んだ和歌で、小学校時代に五・七・五・七・七のふしをつけて覚えたものです。年末年始で食べ過ぎた身体を労り無病息災を願って、1月7日「人日(じんじつ)の節句」に七草を入れた七草粥を食べる習慣があります。最近はスーパーでも七草をセットにして売っていたり、レトルトの七草粥もあって、お手軽に伝統の風習を継ぐことができます。一方、秋の七草の覚え方の一つは、
 はぎ/ききょう・くず/ふじばかま・おみなえし
 おばな/なでしこ・あきのななくさ
です。春の七草が野菜や野草が混じっているのに、秋の七草は野草だけで食用にはされず、もっぱら花を見て秋を楽しむためのものです。万葉集の山上憶良の歌、  秋の野に 咲きたる花を 指(および)折り かき数うれば 7種(ななくさ)の花
 萩の花 尾花(おばな/ススキ) 葛花(クズ) なでしこの花 女郎花(おみなえし) 藤袴(ふじばかま) 朝顔の花(ききょう)
が秋の七草のルーツです。

万葉集の「朝顔の花」は桔梗のことだと言われます。私たちが夏の風物詩でいう「朝顔」は平安時代に日本に渡来した外来種なので、万葉集の時代には存在していません。桔梗は日本古来の土着の植物で、日本列島が大陸と地続きであった頃から分布していました。野生の桔梗は陽当たりの良い草原の山地に生えます。すっきりと伸びた茎に一重の花びらをつけた凛とした風情で朝から咲き続け、夕方の光の中ではいっそう艶を増します。
 朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけれ
 (よみ人しらず「万葉集」)
桔梗も自生できる野山が少なくなり、環境省が「絶滅の危険が増大している」と分類し、警告しています。

秋に巡ってくる節句といえば、9月9日「重陽(ちょうよう)の節句」で、菊の節句ともいわれます。この日に菊の花びらを浮かべた菊花酒を飲む中国の古い慣わしは平安時代に菊花宴として日本の宮廷行事に取り入れられました。江戸時代には幕府で諸大名が登城し、菊花の祝い酒を飲む儀式もありました。陰陽説では九は最大の陽数で、ふたつ重なる9月9日は大変おめでたく(重陽)、不老長寿効果のある薬草の菊を鑑賞したり、食したりしたわけです。

菊は皇室の家紋とされ、桜とならんで日本の国花です。色も形もさまざまでたくさんの品種があり、冬になっても寒菊などと呼ばれて楽しませてくれます。菊はもともと仙人の住むところに咲いていて、邪気を祓い、霊力を持つ花と珍重されてきました。酒に浮かべるだけでなく、菊のおひたし、菊なます、あるいはお吸い物に浮かせるなど、見た目と香りで無病息災を願いましょう。とはいえ何事もタイミングは大事です。「十日の菊」は重陽の節句に間に合わなかった菊の花をいいます。万事手遅れにならないよう気をつけましょう。

(2022.9.1)