広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter14. 「聞く」と「話す」

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

あるラジオ放送局のベテラン女性アナウンサーの話を聞く機会がありました。アナウンサーは文字通りアナウンスする仕事なので、いかにうまく話すかという話術が大事だろうと思っていましたが、その女性アナ曰く「しゃべるよりは聞く方がずっと重要だ」そうです。仕事上、取材や対談の機会が多いわけで、そのようなときに「聞く」というのは「聞こえる」とはまったく違う行為で、人の話を「聞く」のは大変難しいそうです。そもそも人が真剣に聞くのは、一に儲け話、二に自分へのほめ言葉、三に自分の欲しい情報だそうです。アナウンサーとして対談相手と言葉のやりとりをしていると、時として相手の話が「聞けてない」状態になり、頭が真っ白になって言葉を返せなくなることもあったと告白されていました。とは言え一時間半の講演で、時に笑いを、時に涙を誘うなど、寸時も人をそらさぬ話しぶりはさすがベテランアナと感心しました。

人とのコミュニケーションのプロともいえるアナウンサーから教えられたコツは、「耳で聞く言葉よりも字に書いたメモ」でした。医師や看護師など医療従事者の説明に、患者が「判りました」と答えたにもかかわらず実は理解できていなかったなど、往々にして経験するところです。逆に患者が訴える症状や服薬状況などが、果たして正確に医師に伝わっているかも疑問の出るところです。診察を受けたときに、患者からの情報が医師に誤って理解されると、誤診や間違った治療がなされないとも限りません。患者自身が身を守るためにも、問診表に正確に記載し、さらに日頃の体調などをメモして持参するなどの工夫は必要です。診療の効率を図るためにも、ぜひ心がけていただきたいと思います。

聞くことや話すことが不自由な場合、専門的には言語聴覚障害と表現します。これらの障害のある方を支援する専門職が言語聴覚士です。医療現場で、言語聴覚士はST(Speech-Language-Hearing Therapist)と呼ばれ、PT(Physical Therapist、理学療法士)やOT(Occupational Therapist、作業療法士)とともにリハビリテーションの大きな部分を担っています。STは言葉によるコミュニケーションに問題のある方に専門的サービスを提供するだけでなく、食べたり飲み込んだりすることの障害(摂食・嚥下障害)にも積極的に関わり、人間らしい生活が送れるように支援します。

食べるという行為は、人間の大きな楽しみのひとつであり、生きていく上で必要な栄養や水分を摂取する動作でもあります。しかし、お年寄りや脳血管障害のある方などでは、往々にして咀嚼・嚥下機能(食物を噛んだり、飲み込んだりする働き)が低下します。その結果、誤嚥性肺炎や窒息を生じる危険性が増し、これらを原因とする死亡者も加齢とともに増える傾向にあります。そうかと言って、安易に経口栄養から経管栄養(胃瘻など)や経静脈栄養に切り替えるべきではなく、少しでも生活の楽しみを奪わないように、可能な限り経口摂取出来るよう努力すべきです。ここで活躍するのがSTたちで、摂食・嚥下訓練を専門的に指導して、一日も早く社会復帰出来るよう努めます。芦屋病院で行われているこのような医療は、 NST(Nutrition Support Team、栄養サポートチーム)と呼ばれるグループが担当し、その構成はSTをはじめ医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士など多職種、多人数で、それぞれの専門分野を活かして、患者の栄養管理に努めます。近年の医療のキーワードのひとつ、「チーム医療」の代表的な実践の場です。

芦屋病院ではベテランSTが優秀なPTたちとともに患者の社会復帰を支援しています。コメディカルといわれる彼らの活躍にも目を向けてください。

(2010.8.1)