広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter64. ボリウッド

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

「ボリウッド」が元気です。映画の都として誰もが知っている「ハリウッド」を中心に、アメリカで製作される映画の本数は年間約700本です。そのアメリカの2倍近くの映画を製作し、商業映画製作本数で世界第1位にランクされるのがインドです。ちなみに日本は中国に次いで第4位で約450本です。ムンバイ(旧名ボンベイBombay)でインド映画の多くが撮影されることから、ボンベイの頭文字「B」とハリウッドをもじって、インド映画は「ボリウッドBollywood」と呼ばれています。

インド映画といえば、シンプルなストーリーで美形の男女が歌って踊って、豪華絢爛ミュージカル仕様が定番です。ちょうど日本映画が黄金期を迎えた1960年前後を彷彿とさせる状況でした。そのボリウッドにすこし異変が起こっているようです。最近続けて封切られた「マダム・イン・ニューヨーク(原題English Vinglish)」と「めぐり逢わせのお弁当(原題The Lunchbox)」にそれを感じました。両映画とも主人公は典型的な良妻賢母の専業主婦です。「マダム・イン・ニューヨーク」のシャシは料理上手、家族でただ一人英語が出来ないため、夫や娘から相手にしてもらえません。ニューヨークで暮らす姪の結婚式の手伝いに家族に先行して出かけた彼女が一念発起、語学学校でこっそり英会話を身につけます。クライマックスの結婚披露宴で、みんなをあっと言わせるスピーチを英語で披露し、ヒロインに感情移入している観客をしてやったりと喜ばせます。

「めぐり逢わせのお弁当」のイラもまた娘を持つ料理好きの専業主婦、手作り4段重ねのお弁当を弁当配達人に託して夫のオフィスに毎日届けます。ところが600万分の1の確率の誤配送で、退職を控えた男やもめのもとに届けられます。料理のおいしさに感激した男と、夫と異なり完食された弁当箱に歓ぶイラとの間に手紙のやりとりが始まります。夫は妻に向き合うことなく、その上浮気までしているようで、まだ見ぬ男にイラは密かに思いを寄せていきます。

「マダム・イン・ニューヨーク」のシャシも語学学校のクラスメートに恋され心が揺らぎます。妻を愛してはいても尊敬していない「マダム・イン・ニューヨーク」の夫、愛妻弁当に感想も無く、妻に目もくれない「めぐり逢わせのお弁当」の夫、いずれも妻の人格や自尊心を認めない「インド社会」いや「男社会」を現し、映画はこれに痛烈な一矢、二矢を放っています。

「男社会」という意味では日本も負けていません。全就業者に占める女性の比率は42.2%(2013年)と欧米と大差ありませんが、女性管理職の比率となると、欧米の25~40%以上と比較し、11.1%(2012年)と大きく出遅れています。それどころか、今年7月に行われた全国1万社の企業調査では女性管理職の平均はわずか6.2%です(帝国データバンク)。先頃、芦屋病院において、兵庫県医師会男女共同参画推進委員会と当院勤務医との懇談会が開かれました。女性医師からの意見のひとつに、いくら頑張っても病院長等トップ管理職になることが出来ないという苦情が出ました。たしかに私の知るかぎり全国200名を越える病院事業管理者のうち女性は1名だけで、それも医師ではなく事務職です。

政府の目指す2020年女性管理職30%の目標実現は高いハードルですが、今や男女で知恵を絞らなければならない事態であることは確かです。

(2014.10.1)