広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter37. バックステージツアー

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

東京築地市場のガイド付きツアーに参加しました。人気が高いため最近入場制限がかかったという場内市場のセリはあいにく見学できませんでしたが、DVDを使ってレクチャーを受けた後、セリ終了後の場内市場と場外市場を見学しました。築地市場は世界最大級の規模の卸売市場で、広さは後楽園球場五つ分、マグロのセリで有名な水産物を中心に青果や鶏肉・鶏卵等も扱っています。発泡スチロールのトロ箱がところ狭しと拡げられ、水浸しの通路を360°回転可能な電動台車が猛スピードでミズスマシのように駆け抜けます。サメの心臓や巨大なタコの卵など私が調理法を知らない食材も沢山あって、興味津々でした。もっとも店員に気軽に声をかけて訊けるような雰囲気ではありませんでしたが。

その点、場外市場は一転して買い物客で溢れ、外国人観光客も多く、賑やかな呼び込みの喧噪を楽しめました。食料品はもちろんのこと、ありとあらゆる種類の店が並び、ガイドの話で「築地には競馬場と墓場以外は何でもある」と言われるゆえんです。かまぼこなどの煉り物屋、卵焼きの店、佃煮屋、乾物屋、お菓子屋などがどんどん試食させてくれ、新茶の試飲も出来るなど、一巡りすれば口も舌も満足します。安くておいしい寿司屋は何処も長蛇の列です。ツアーは「春の特選寿司ランチ」付きでしたので、旬の魚介を食したのちに、大トロ握り、アワビの握り、そして卵焼きで〆め、という料理に堪能したのは言うまでもありません。

お江戸東京の台所を担ってきた築地市場は、東京都民の裏方のような存在で、ツアーはいわば舞台裏見学です。舞台裏と言えば、30年くらい前に訪れたハリウッドのユニバーサルスタジオのバックステージツアーを思い出します。実際に映画撮影が行われているスタジオをトラムに乗って見学することが出来ました。「ジョーズ」や「サイコ」などのセットが再現されていて、ジョーズに襲われるアトラクションもあります。運が良ければ大スターに遭遇することも可能とのことですが、残念ながらそのようなチャンスはありませんでした。しかし映画とくに洋画が好きで、高校時代は映画館に入り浸って年間100本も鑑賞していた私にとっては、あこがれのスタジオツアーにワクワクしたものです。その後、2008年に大火災が発生、スタジオの歴史的なセットが消失してしまいました。同時に燃え尽きた倉庫に保管されていたフィルムは、コピーがあったので実害がなかったのが不幸中の幸いでした。

芦屋病院におけるバックステージツアーとも言えるのが、毎年市内中学生有志がやって来る「トライやるウイーク」です。研修先に病院を選ぶ中学生は、医師、看護師、薬剤師を夢見る子供達や、家族の誰かが入院生活を送った子供達が多いようです。朝礼での自己紹介で「トライやるウイーク」の幕が開きます。学生達は一週間院内各所でみっちりと医療現場を見学し、時には実習をします。後日、学校から送られて来る感想文集を読むのも私たちの楽しみです。学生達はまず、普段決して入ることの出来ない場所を見学出来た喜びと驚きを素直に述べています。また病院が想像していた暗いイメージと異なり、笑い声も聞かれる明るい職場だと一様に認識を改めています。映画やテレビドラマではない本物の手術見学も印象的です。

手術室での手洗い実習、ガーゼカウント、薬剤科での薬の個包装実習、栄養管理室でアレルギー患者用おやつ作り、リハビリテーション科の車いす操作、放射線科でのCTやマンモグラフィー見学など、いずれも新鮮な体験への喜びに満ちています。なんと言っても、病院が診察や手術などの表舞台だけでなく、医療を支えるために多くの職種の人々が、地味な仕事をしていることに驚いてくれるのは嬉しいことです。まさに私たちの目指すチーム医療を子供達が理解してくれたと思います。何よりも良かったのは、「患者さんからの『ありがとう』のひと言がこんなに嬉しいとは思わなかった」との感想です。

「ありがとう」と言っていただける病院作りに励みます。

(2012.7.1)