広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter23. 復興へ

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)から一ヶ月が経ちました。この間、世の中は自粛ムードで、私が関係する医学会や多くの行事のほとんどすべてから、中止または延期の案内が来ています。派手なお祭り騒ぎを控えるのは当然のことですが、多くの行事がキャンセルされることにより、経済活動が停滞し、少し上向きになっていたわが国の景気をいっそう冷え込ませないか、心配でもあります。被災地以外では消費活動を活発にして、得られた資金を少しでも被災者や被災地の支援に向けるというのも、震災復興の方策ではないでしょうか。

この度の震災は、大地震に加えて、大津波さらには原子力発電所からの放射能漏出と、被災地にとっては二重、三重の苦痛を受けました。とは言え、16年前に私たちが経験した阪神淡路大震災の経験がまったく生かされなかったわけではありません。自衛隊、消防、警察などの初動、応援、協力体制も比較的早くから機能していました。医療関係では、阪神大震災を機会に立ち上げられたDMAT(災害派遣医療チーム)、それに続くJMAT(日本医師会災害医療チーム)の活躍など、医療チームの素早い活動には目を見張るものがありました。各種ボランティア団体も燃料不足などアクセスに苦しんだとはいえ、現地に到達して役割を果たしていたように見受けます。

被災地の瓦礫の山も少しずつとはいえ整理が始まり、地域によっては日常生活への復帰も始まりました。道路や鉄道の復旧が進めば、復興のスピードも速くなると期待されます。仙台空港の再開は嬉しいニュースでした。疾病でいえば、急性期が過ぎて、亜急性期あるいは慢性期の状態に入りつつあると考えられます。この時期に要求されるのは自立です。被災地の方々の自力再生を少しでもサポートする方策が要求されます。阪神淡路大震災の折、隣接地域を始め日本全国から、医師を含め多くの医療従事者がボランティアとして駆けつけ、避難所や救護所で患者に無料診療を行いました。当然、大いに感謝されたわけですが、数ヶ月経ち被災地の医療機関が立ち上がってくると、無料診療と競合する地元診療所や病院から経営悪化の悲鳴が上がってきました。同様の現象はおそらく他の分野でも起こっています。たとえば、震災直後に必要とされ、各地から急送されたおしめやトイレットペーパーを始めとする日用雑貨なども、小売店やスーパーなどが立ち直ってくると、顧客の購買力をそぎ経営圧迫の原因になります。当面の緊急事態を脱した被災者には、ワンパターンの支援ではなく、状況に応じた自立幇助が要求される所以です。

最も有効な自立支援は義援金でしょう。現金は購買力を増し、地元経済の活性化につながります。阪神淡路大震災の義援金は1788億円で、今回はそれを上まわるペースで集まっているそうです。しかし、阪神大震災で個々の被害者に給付された義援金はきわめて些少でした。阪神大震災をはるかに上まわる東日本大震災の被災者には、なまじの額の義援金は焼け石に水です。ここはひとつ、日本国民の互助精神の発揮しどころではないでしょうか。

もうひとつ、被災地が必要とするのはマンパワーです。いつまでも自衛隊にオンブにダッコというわけにはいかないでしょう。とくに高齢者が多い東北地方です。若者のボランティアの奮起を大いに期待します。官民挙げての息の長い支援が望まれます。

(2011.4.20)