広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter119.八十八夜

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

5月2日の「八十八夜」は今年の立春の2月4日から数えて88日目にあたります。この時期は茶摘みの最盛期で、もっともおいしい茶葉が得られるといわれます。今年は新天皇の即位式や新元号の発足、さらには超大型連休の中日と、話題満載の5月です。

八十八は重ねると「米」という字になり、日本人の主食であり、稲作農業の要を指すことから、縁起のいい数字とされてきました。八十八歳の長寿の節目を祝う「米寿」が良い例です。八十八夜に摘んだ茶を飲むと無病息災の言い伝えも、おめでたい八十八をもじったものと思われます。長寿の薬ともいわれる新茶ですが、お茶には健康に良い影響を与える成分が実際に含まれています。新茶に多いカテキンはポリフェノールの一種で、抗酸化作用などでがん予防に効果があるとされ、緑茶の持つがん予防効果の臨床研究グループもあります。ビタミンCもまた抗酸化作用を持ち、煎茶にもっとも多く含まれ、ウーロン茶や紅茶ではほとんど認めません。お茶の苦みの元でもあるカフェインは、玉露に大量に含まれます。カフェインは脳を刺激し興奮させ、覚醒作用や利尿作用をもたらしますが、やはりお茶に含まれるテアニンの抑制作用で多少は相殺されます。

日本茶といえば茶道ですが、昨年公開された映画「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」はやはり昨年亡くなった樹木希林がお茶の師匠役で出演し、日本アカデミー賞で最優秀助演賞を受賞する演技をみせました。主演女優賞を獲得した黒木華の演技も良かったのですが、なんといっても樹木希林の存在感に圧倒されました。茶道教室の先生という脇役ではありますが、セリフの一つ一つが人生を語っているようで心に染み入ります。タイトル「日日是好日」にもなった「毎年同じことができることが幸せ」の言葉は、余命いくばくもないことを自覚していた樹木希林の心情そのものであったと思われます。平成の大女優でした。

Tea time(お茶の時間)は洋の東西を問わず、くつろぎの時間です。お茶の時間に話されるのは、冗談や笑い話など楽しい話題です。ここから冗談っぽくすることを「茶化す(茶と化す)」と言い、無邪気にふざけることから「茶目(ちゃめ)」「茶目っ気(ちゃめっけ)」などが生まれました。江戸時代の浄瑠璃に「(当時の習慣にない肌を露出させてへそを見せるような)人をバカにして笑いものにする」ことを「へそを茶化す」と言っています。ここからばかばかしいことを「臍が(で)茶を沸かす」と表現するようになりました。また茶にまつわることわざで「茶柱が立つと縁起の良い予兆」などは、何の根拠もありませんが珍しい現象として気休めに言ったのでしょう。イギリスのお茶の時間は紅茶です。アーリーモーニングティーに始まり、ナイトキャップティーまで「イギリス人は1日に7回お茶を飲む」といわれます。個人的にはホテルなどで供されるアフターヌーンティー・セットが好きで、メニューにあるとついオーダーしてしまいます。

まもなく初夏といっても、八十八夜には急に気温が下がって霜が降りることも稀ではありません。農作業の戒めとして、昔の人はこれを「八十八夜の忘れ霜」あるいは「なごりの霜」と優雅な命名をしていますが、現代にあっても季節の変わり目にみられる気温の急激な変化に対して体調管理が大事です。

(2019.5.1)