広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter115.NEW

市立芦屋病院事業管理者 佐治 文隆

今年の干支は亥年(イノシシ)です。「イノシシ・カノシシ・カモシシ」は古語でそれぞれ「猪・鹿・羚羊(かもしか)」を指します。語尾に付く「シシ」は「肉」のことで、いずれも古来日本人が食用としてきた動物であったのが命名の由来とされています。冬季に備え脂肪の蓄積が増え、栄養状態の良くなった初冬の猪肉は美味で、鍋料理は牡丹鍋と称されて冬場の代表的味覚の一つです。猪は牛、馬、豚などと異なり、屠畜場(とちくじょう)法の適用外なので、食肉としての法定基準が設けられていないため、寄生虫やE型肝炎ウイルスの感染に注意が必要で、加熱処理は必須です。

豚は猪が家畜化されたものであり、そもそも中国語でイノシシは「亥」であって、「猪」は豚を意味します。猪の家畜化は世界各地で行われ、その歴史は8000年以上前に遡るといわれます。わが国の豚は日本古来の野生猪を家畜化したものでなく、どうも中国大陸から輸入された豚を飼育したようです。豚も品種改良が進み、市場にはブランド豚と言われる豚肉が多数出回っています。鹿児島黒豚、イベリコ豚、茶美豚、あぐー豚等々数え切れない銘柄豚が味を競っていますが、私には正直なところ味で銘柄の識別は出来かねます。豚と猪の交配種イノブタも食肉に供されますが、私の記憶では食べた経験はありません。

豚をめぐることわざや慣用句は少なくありませんが、「豚に真珠」、「豚は太らせてから食え」、「豚もおだてりゃ木に登る」など、豚には馬鹿にされた表現が多く見られます。「ブタ箱」は警察の留置場の隠語です。へりくだった言い方とはいえ「豚児」は愚息を意味します。太った人に対する「ブタ!」は何と言っても失礼です。猪についても慣用句はほとんど見られず、「猪突猛進」(がむしゃらに進む)、「猪勇」(向こう見ずの勇気)など決して褒め言葉ではありません。「遼東の豕(いのこ)」もまた世間ではありふれていることを知らずに自分一人で得意になることを意味します。

言葉の上では馬鹿にされることの多い豚ですが、豚を主人公にした物語では愛らしいキャラの持ち主として描かれることが多いようです。スタジオジブリの「紅の豚」ではカッコイイ主人公の豚ポルコ・ロッソが、「飛ばねぇ豚はただの豚だ」のセリフを吐いてパイロットとして活躍します。アカデミー賞7部門にノミネートされたことのあるアメリカ映画「ベイブ」は子豚ベイブの成長を描いた作品で、続編「ベイブ/都会へ行く」も製作されました。「三匹の子豚」は誰もが知るおとぎ話で、ディズニーのアニメーション映画にもなりました。NHKテレビ人形劇「ブーフーウー」は「三匹の子豚」をモチーフに、その後日談という設定で進行し子供達の人気を得ました。

じつは豚は皮膚や内臓の大きさが人間に近いことから異種移植の臓器ドナーとして最有力候補に挙げられています。腹腔鏡手術のトレーニングでも無菌清浄豚が使われて、手術手技の習得と向上に利用されています。猪を家畜化した豚は、食用だけでなくヒトの健康にも大いに貢献しています。

(2019.1.1)