広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter8. プロバイオティクス

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

通勤途上で犬の散歩をしている人をよく見かけます。凍てつく早朝、犬に引っ張られるように白い息を吐きながら歩いている人たちは、一様にビニール袋を下げ、中には小さなスコップを準備している人もいます。そう言えば、以前は道路のあちこちに犬の排泄物を見かけましたが、最近はずいぶん少なくなりました。動物の便の中には得体の知れない寄生虫の卵が含まれていたりして、人間にとっても感染症の原因になりかねません。飼い主がペットの排泄物の処理に気をつけるのは当然のエチケットと言えます。


ヒトの大便も動物のそれに負けず劣らず病気の感染源になります。大便の70~80%は水分で、残りは食物の残渣(カス)や細菌に占められています。大便1g中には約10の12乗すなわち1兆個もの細菌がいて、その種類は約500種以上といわれています。こんなに沢山の細菌が住み着いていて、よく病気にならないものだと思いますが、実は口から食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と連なる消化管は、ある意味で体外といけいけでつながっている状態です。したがって腸管だけでなく口腔内にも多数の細菌がいます。ちなみに口腔内の細菌については、その数パーセントくらいしか働きが判っていません。


一方、腸内細菌についてはずいぶん解明が進んでいます。腸内の細菌叢(フローラといいます)の約500種の細菌のうち約100種類については培養可能で、その働きも判って来ています。その結果、腸内菌には健康を害し病気を引き起こす有害物質を作る悪玉細菌だけでなく、健康を維持し、いつまでも若々しさを保持する働きを持つ善玉細菌があることが判りました。後者の「健康に有用な性質を持つ生きた微生物(細菌など)」を「プロバイオティクス」と総称します。プロバイオティクスの代表的なものは、ラクトバチルスやビフィズス菌などで、ヨーグルトや乳酸菌飲料として摂取されている方も多いでしょう。


ヒトの健康維持や病気の予防治療において、腸内プロバイオティクスは免疫系を介して作用するようです。たとえば花粉症などアレルギーの増加に影響する要因のひとつに腸内フローラの変化が挙げられていて、アレルギー患者では腸内細菌に占めるビフィズス菌や乳酸桿菌が少ないというデータもあります。腸管は「体内最大の免疫臓器」とも言うことが出来、全身のリンパ球の60~70%が存在しています。免疫系の中でもナチュラル・キラー(NK)細胞は自然免疫といって、がん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃して排除する機能(NK活性)があります。喫煙や運動不足はこのNK活性を低下させますが、乳酸菌シロタ株は逆にNK活性を増強する効果があると報告されています。難病のひとつ潰瘍性大腸炎は発症原因すべてが解明されていませんが、免疫が関与していると考えられています。患者の腸内フローラの構成が健康人のそれと異なっていることから、ビフィズス菌発酵乳の飲用で腸内フローラの正常化を図り、症状軽減効果が見られたということです。


21世紀は予防医学の時代といわれます。プロバイオティクスの活用もその手段のひとつです。喫煙、大量飲酒、運動不足、栄養バランスの悪い食生活、ストレスなどの危険因子を少しでも少なくする生活習慣を身につけてください。市立芦屋病院は、全力を挙げて市民の健康保持をサポートして参ります。

(2010.2.1)