広報誌HOPE Plus

事業管理者のつぶやき

Chapter7. トラ

市立芦屋病院 事業管理者 佐治 文隆

新年おめでとうございます。
2010年、寅(とら)年の初春を迎えました。「トラ、トラ、トラ」は日本軍の真珠湾奇襲攻撃の成功を伝えた暗号電信ですが、これをきっかけにわが国は悲惨な太平洋戦争にのめり込んでいきました。沖縄戦の悲劇、広島・長崎の原爆投下と続いて、戦争終結を迎えました。一般住民約10万人を含む20万人以上が戦没した沖縄諸島の地上戦は、島民に大きな傷痕を残しました。戦後も琉球列島米国民政府による統治が、1972年に日本に返還されるまで続きました。返還後も東アジアをにらむアメリカの軍事プレゼンスの拠点として、在日米軍基地の四分の三が沖縄県に集中している状態です。その結果、騒音問題、米兵のからむ犯罪など多くの迷惑を沖縄県民にかけることになり、沖縄にとって戦後はまだ終わっていないと言えるでしょう。一方、基地の存在にともなう基地関連産業は、雇用や経済の上で、観光産業に次ぐ第二の産業として沖縄経済を支えているのも事実です。


昨年来、沖縄県の基地移転をめぐって、鳩山政権が揺れ動いています。日米同盟を重視するのか、県外移転を望む県民感情を優先するのか、はたまた三党連立政権の維持を念頭におき国外移転を迫るのか、鳩山ハムレットの悩みはつきないようです。どのような決着をみるのか判りませんが、私たちは戦争で大きな犠牲を払った沖縄県民が幸せな生活が送れることを第一にして、この問題の解決を図らなければならないと思います。

騒音問題で大阪国際(伊丹)空港の廃止が叫ばれたとき、多くのマスコミは「廃止ありき」の論調で一致していました。関西国際空港が完成した今、伊丹空港地元の経済界も空港存続の意向を示し、その後に完成した神戸空港も含めて、三空港の共存を主張する政治家も少なくありません。思うに、将来のビジョンを持たず、場当たり的な政策をとったことが今日の関西三空港の混乱を引き起こしたのだと言えます。

沖縄の米軍基地問題の解決にあたっては、関西三空港の轍を踏まないよう、とにかく沖縄住民の将来に配慮した方策を考えていただきたいものです。例えば、基地をある程度存続させるのであれば、徹底的な騒音対策・治安対策を取るのも良いでしょう。基地を移転させ、廃止させるのであれば、観光産業の支援のため、沖縄と日本全国との航空路に関しては、片道無料の補助を行っても良いではありませんか。沖縄県民への謝意として、国からこれらにかかる経費を支出することに異存はありません。


寅年の「寅」は、「動く」意味で、春が来て草木が生える状態を示しているそうです。懸案の基地問題が解決に向けて「動いて」、沖縄に本当の春がやってくることを心から望んでいます。

(2010.1.1)